NPOブックスタート Bookstart Japan

自治体の方へ

子どもの権利を保障するケアリング・コミュニティへ

お話をうかがった方:
秋田喜代美さん(教育心理学・学習院大学教授・東京大学名誉教授)

※本稿はブックスタート・ハンドブック 第7版(2018年4月発行)掲載の「専門家から見たブックスタートの可能性」を転載したものです。

イギリスでブックスタートを始めるきっかけは、ブックスタートの発案者であるウェンディ・クーリングさんが、小学生になっても本の扱いを知らない一人の男の子と巡り合ったからというエピソードを、私は日本のブックスタートを立ち上げる2000 年にイギリスを訪問した時にうかがいました。そのことが今でも脳裏に刻まれています。

そこには子どもの権利保障の哲学がありました。イギリスのブックスタートは、確かなスタート(Sure Start)を学校に入る前にできるようにという、家庭教育プログラムの一環として始まった活動です。多様な民族や人種の子どもも、障害や発達の遅れの有無、家庭の経済的格差によらず、すべての赤ちゃんに絵本の経験を保障するという理念を聞き、「この活動だ」と私は確信しました。

ブックスタートは、どのご家庭にも格差なく、色々なハンディがあるお子さんも取りこぼすことなく、そして赤ちゃんの時だけではなく、生涯にわたり絵本を見て語り合う楽しさ・共有の基盤を創るという、段差のない継続性の理念が大事だと思います。だからこそブックスタートは、「公共の事業」として、子どもにとっての教育や福祉、保護者にとっての子育て支援、そして、地域にとっての絆づくりといった重要な意味を持っています。日本でも様々な障害のあるお子さん用のパックの充実や、健診に参加できないご家庭にもきめ細やかに届く工夫が、これからさらに大事だと思っています。

日本は「子どもの権利条約」を採択しています。「生きる権利、守られる権利、育つ権利、参加する権利」の4つが子どもの権利です。絵本は子どもたちにとって社会的、文化的な存在として生きるための「心のミルク」であり、社会の文化的活動に参加していくための基盤となるコミュニケーションの絆を創るものです。乳児期で終わりではなく、ブックスタート後も、絵本経験への連続性を保障するプログラムが、各自治体の創意工夫で生まれています。

親も子も、地域で育つコミュニティづくりとなってもらいたいと願っています。嬉しいのは、パパやおじいちゃんの絵本の活動への参加が増えていること。絵本コミュニティに子どもが参加する権利を保障する地域の環として、ブックスタートが根付いていってもらいたいと思います。