NPOブックスタート Bookstart Japan

自治体の方へ

「お金がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション③

昨今、地方自治体の財政や、取り巻く環境はどのような状況にあるのでしょうか。ブックスタート事業の予算を確保する「鍵」はどこにあるのでしょうか。企画課担当者としてブックスタートの体制づくりに携わり、現在は首長を務める、北海道中頓別町 町長 小林生吉さんにお考えを伺いました。
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<話題提供>
北海道中頓別町 町長 小林 生吉さん

<中頓別町基本情報>
事業開始:2002 年度  出生数:8 人(2023年)
実施機会:6か月児健診 事務局:教育委員会
連携機関:保健福祉課、政策経営課(旧企画課)、ボランティア

本当にお金が「ない」の?
今回、このテーマを聞いた際、正直なところ「えっ!?」と思いました。
中頓別町は北海道の北部に位置する酪農と林業の町です。人口は約1,500人。高齢化率は約40%。年間出生数は10人前後で推移しています。町が単独で取り組む子ども関連の事業はいろいろとありますが、ブックスタートの一人あたりの費用は3,000円ほど。他 事業と比べてかなり少額です。ただ、こうした声が聞かれるということは、それだけ厳しい地方自治体の現状があるのだと思います。

地方自治体の財政状況は?
地方自治体の歳出について、日本でブックスタートが始まった2001 年度と2024年度を比較してみました。歳出総額はほぼ横ばいですが、社会保障関係費は高齢化の進行等により増加しています。一方、投資的経費(=公共事業費)、給与関係経費(=人件費)は減っています。(※1)
もうひとつ、地方公共団体の財政を見る視点に「経常収支比率」があります。低いほど弾力性があり、基本は80%以下、理想は60%といわれていますが、都道府県も市町村も90%のラインを超えています。つまり、それだけ弾力性がないということです。(※2)

※1 地方財政計画の歳出の推移より2001年度と2024年度を比較

総額 社会保障関係費等の
一般行政経費
投資的経費 給与関係経費
2001年度 89.3兆円 21兆円 27兆円 24兆円
2024年度 93.6兆円 44兆円 12兆円 20兆円

今後目指すべき地方財政の姿と 令和7年度の地方財政への対応等についての意見(令和6年12月9日地方財政審議会)資料5をもとにNPOブックスタート作成
※2 総務省令和6年度版地方財政白書ビジュアル版>財政構造の弾力性 

子育て支援関連計画の変遷
子育て関連の施策についてはどうでしょうか。経緯をたどってみると、1990年の厚生白書に「子育て支援」という用語が登場しています。以降、エンゼルプランなど、いろいろな計画が策定されています。こうした変遷とともに、地方自治体の子育て支援に関する仕事は増え続けています。

時間、人、お金? 本当になくなりかけているのは?
地方自治体の財政は、総額が抑制されてきた一方、社会保障関連経費などの負担が増えている。そして、経常的な経費の占める割合が高く、財政の柔軟性を失っている。結果として、独自の政策のために使えるお金が少ない。それにもかかわらず、やらなければならない仕事は増え続けている。そんな現状があります。

とはいえ、先にお話ししたように、ブックスタートはさほどお金がかかる事業ではありません。それなのに、なぜ削減の対象になってしまうのでしょうか? 時間もないし、人もいない… …。よくわかります。予算獲得のため、計画への位置づけや事業評価などの戦略も必要です。でも、本当になくなりかけているのは何でしょう?

中頓別町の活動
中頓別町では2002年、子どもの育ちに関わる人たちが集まり、話し合いを重ねながらブックスタート事業に取り組み始めました。同時に、1 歳児、1 歳6か月児、3歳児健診でも読みきかせと絵本のプレゼントを行う「いきいきふるさと推進事業」も始めています。役場の企画課担当や教育委員会の職員、こども園の先生も、ボランティアさんと共に黄色いエプロンをつけて読みきかせを担当しました。
事業開始当時も今も、会場には幸せな空気が流れています。ただ、時間の経過とともに、本来の趣旨やこの事業がもつ魅力がどれだけきちんと引き継がれてきたのか、という点には課題があるように思います。実はこの点がとても大事なのではないでしょうか。

ブックスタートへの「愛」!
ブックスタートは素晴らしい事業だと思います。実際に、任意の事業であるにも関わらず、1,100 超の自治体が主体的に取り組んでいる。こうした事業は、数少ないと思います。そして、ひとつの事業でありながら、母子保健、子育て支援、読書支援、まちづくりなど、いくつもの役割を果している。複数の機関が一緒に取り組める点、そして、市民と協働できるプロジェクトである点も貴重です。さらには、日本ではこの約20年の間に、事業がもつ可能性を示唆する情報も蓄積されてきています。活動の輪が、世界に広がりつつあるという点にも魅力があります。

ブックスタートを「続けていく」ということは、絵本の持っている力、この活動が持っている力を信じて、それを大切にしていく、という点に尽きると思います。精神論のようになりますが、ブックスタートへの「愛」。これがあれば、壁は、自然に倒れていくのではないでしょうか。

・・・・・
事業の立ち上げや継続的な予算の確保に必要なことについて、ご登壇の皆さんにもアドバイスを頂きました。

◇ 千葉県鎌ケ谷市健康増進課 母子保健係長 角田まゆみさん
保健師の立場からは、ブックスタートは親子の愛着形成、ふれあい、そして子育てにつながるものと認識しています。きっと、そのあたりもポイントになるのではないでしょうか?市の総合基本計画や子ども・子育て支援事業計画にも、ブックスタートを位置付けています。

◇ 福岡県筑後市立図書館 館長 一ノ瀬留美さん
ボランティアさんは図書館と市民の架け橋だと捉えています。その声が市長や役職者にしっかり届くよう、しっかりとパイプを作っていくことも私の役割です。
役職者が変わったときには、活動の見学の機会やボランティアとの意見交換の場を設けるなど、意識的に行っています。また、新聞などのメディアに取り上げてもらえるような働きかけにも力を入れています。

◇ NPOブックスタート理事・埼玉県三芳町立図書館 元館長 代田知子さん
三芳町では議会質問がきっかけで、ブックスタート事業が始まりました。でも、それ以前から、図書館と保健センターでは、母親学級などで連携した事業を行っていたんです。その下地があったからこそ、スムーズに立ち上げができたように思います。
広報紙の活用も効果的だと思います。赤ちゃんの写真は、心を動かす力がありますよね。市民のみならず、職員、議員へのアピールにもなります。PRは重要ですね。

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[開催報告]2024年度ブックスタート全国研修会
「時間がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション①
「人がいない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション② 
「お金がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション③
実施・継続に必要なことは?~2024年度全国研修会・パネルディスカッション④