ブ ックスタート事業は、単に絵本を配付することではなく、そこに「人」が介在することに大きな意義があります。しかしながら月日の経過とともに、事業に関わる人に入れ替わりが生じ、「世代交代」や「人材不足」という課題に直面している地域も少なくありません。福岡県筑後市で図書館長を務める一ノ瀬留美さんに、この課題にどのように向き合っているかお話しいただきました 。
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<話題提供>
福岡県筑後市立図書館長 一ノ瀬留美さん
<筑後市基本情報>
事業開始:2003 年度 出生数:373 人(2023年)
実施機会:4か月児健診 事務局:図書館
連携機関:こども家庭サポートセンター 、ボランティア
金曜日の午後「ボランティアしませんか?」
ブックスタートのボランティアは現在17名。毎月7~9名が会場に出向いています。嬉しいことに、今年度、新たな仲間が2名加わる予定です。
4か月児健診(ブックスタート)は、第4金曜日の午後に行われています。この時間帯に図書館を利用している方は、ボランティアとして活動してくださる可能性が高いと考え、「ブックスタートをご存じですか?」「みんなで子育てを応援する市の事業です。かわいい赤ちゃんに絵本を届けてみませんか?」と積極的に声をかけています。
興味を持たれた方には、まず会場を見学してもらいます。そして、ブックスタートに関する書籍やDVDをひとまとめにした「ボランティア スタートパック」を貸し出し、ご自宅で学んでいただきます。その後、先輩ボランティアと一緒に活動してもらい、それぞれ「大丈夫!」と自信が持てたタイミングで、ボランティアとして独り立ちしていただいています。
ブックスタートの会場では、赤ちゃんの名前で図書館利用カードを交付しています。その手続きのため保護者がサインしている間、ボランティアが赤ちゃんを抱っこすることがあるのですが、そのひとときは、皆さんにとって本当に「癒し」になるんですよね。この経験をしてしまうと、皆さん、ボランティアを「やりたい!」と思わずにはいられないようです。
赤ちゃんに手渡す絵本は、ボランティアが選ぶ
活動を希望された方は、ブックスタート・ボランティア「さくらんぼ」に所属します。会の代表は、年度ごとの交代制です。誰もが負担なく務められるよう意識しながら体制を作っています。
研修会と総会は、年度ごとに開催しています。研修会では、絵本作家やNPOブックスタート職員を招くほか、先輩ボランティアによるロールプレイなどを行っています。 活動の原点に立ちかえる機会を定期的に持ち、皆さんが自信をもって、継続的に活動できるよう心掛けています。
総会では、次年度の体制等を確認するほか、ボランティアさん に、 プレゼントする絵本を選んでもらっています。以前は図書館員が選んでいましたが、市の赤ちゃんにプレゼントする絵本を市民が決める、というこの方法に切り替えたことは、ブックスタートを行政と市民との協働による「市の事業」として実施していく上でも、大きな意味 があったように思います。
計画への位置づけと、数値への表れ
市の「子ども読書活動推進計画」にブックスタートを位置付けています。こうした計画に盛り込むことは、事業の継続という視点においても大変重要です。
先にブックスタートの会場で赤ちゃんの名前で図書館利用カードを発行しているとお話しましたが、先日、利用登録者のデータを確認していたところ、ブックスタートで赤ちゃんの時にカードを作った子どもたちが、継続的に図書館を利用しているという状況が見えてきました。丁寧な取り組みを継続する大切さを改めて感じています。
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赤ちゃんの笑顔のために力を尽くすことで、関わる人たちも、まち全体も元気になれる――。一ノ瀬さんのお話から、ブックスタート事業にはそうした可能性があることも見えてきました。続いて行われた意見交換では、協力者を求めていく上でのどのような視点を大切にしたいか、意見が交わされました。
◇ 北海道中頓別町 町長 小林生吉さん
事業開始当初は、町の高齢者にも積極的に協力を呼びかけました。最近では、ブックスタートで絵本を受け取ったお母さんが、 今度は手渡す立場で携わる、というリレーのような流れが生まれています。「上手な読みきかせ」に重きを置くのではなく、赤ちゃんを囲んだ「幸せな感覚」の輪を広げるという視点も、ブックスタートにはあってよいのではないでしょうか。
◇ NPOブックスタート理事・埼玉県三芳町立図書館 元館長 代田知子さん
職員に「ボランティアさんとともに育ちたい」という強い思いや、ボランティアを大事に思い、積極的に関わる気持ちがあると、それに応える形で、自然と人が寄ってくるような気がします。ご登壇の皆さんの地域にはきっとそれがあるからこそ、市民が応えてくれているのではないかな、と感じました。
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[開催報告]2024年度ブックスタート全国研修会
「時間がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション①
「人がいない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション②
「お金がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション③
実施・継続に必要なことは?~2024年度全国研修会・パネルディスカッション④