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[親子インタビュー] ブックスタートの1冊から広がった、親子の時間

ブックスタート事業開始から20年を迎えた東京都西東京市。20年前に絵本を受け取った市民にアンケートとインタビューを行った事例をこちらで紹介しました。 

ニュースレター2025年春夏号では、「本を介した親子のつながり」に焦点をあて、西東京市のインタビューを受けた岡本心奈さんと、母・美帆さんに改めてお話を伺いました。今回は、そこでご紹介しきれなかったエピソードも含めて、全編たっぷりお届けします! 

* * * 

― ブックスタートで受け取った絵本について教えてください。 

(心奈さん)これが、ブックスタートでもらった『いない いない ばあ』*1です。やぶれたあともあるので、よく遊んでいたのだと思います。実は、この絵本を読んだ記憶はけっこう残っています。読んでもらって、楽しかったなっていうのは覚えているんですよ。  

(母・美帆さん)実際に読むと、娘はよく「ばあ」とやっていました。私自身も、子どもの頃にこの絵本を読んでいた記憶があります。大学が教育系だったので、授業の中で読んだこともあり、いろいろな意味で懐かしかったです。 楽しい親子の時間を作ってくれる一つのツールという意味で、絵本はすごくありがたい存在でした。毎日の中で、娘とじっくり向き合える時間だったと思います。 


0歳の頃の心奈さん 

― その後、絵本の時間はどんなふうに広がっていったのでしょうか。 

(母・美帆さん)夫の母が以前保育士をしていたので、家に絵本がいっぱいあるんです。遊びに行くといつも「このくらいの年の子にはこういうのがいいよ」と、その時々で娘が関心をもちそうなものを選んで、読んでくれていました。 それから、通っていた保育室でも先生に毎日のように絵本を読んでもらっていたようです。 そんなこともあり、どちらかというと、私からというよりの方から、おばあちゃんや先生が読んでくれた本を「これが面白いよ」と言って持ってきてくれました。娘からの言葉がきっかけで、「じゃあ一緒に読もうか」と読むことが多かったなと思います。 

(心奈さん)以前、たくさんあった絵本を一度整理したのですが、思い入れのある絵本は今も本棚に残しています。その中に『いないいないばあ』も入っていています。 今日は、そのほかにとっておいてある絵本も持ってきました。

(心奈さん)『めっきらもっきら どおんどん』*2 をよく読んでもらっていたのを覚えています。

(母・美帆さん)大好きだったよね。暗唱するほどで、大人相手に「私が読んであげる!」ということもありましたね。 

(心奈さん)『チリンのすず』*3 と『おやまのでんしゃ』*4 は、お母さんからもらった本です 

(母・美帆さん)すごく年代ものなんですよ。私が幼稚園を卒園するときに頂いたんです。先生によく読んでもらって大好きだったので、「これ私好きだったんだよ」と言って娘に贈りました。 

(心奈さん)『マーくんとぷくぷく』*5 は、おばあちゃんにもらいました。お父さんが小さい頃におばあちゃんに読んでもらっていたものです。お父さんが「この本面白いでしょ」と言ってくれると、子どもの頃のお父さんも読んでいたことを感じて、あぁ、つながっているんだなという気がします。 

(母・美帆さん)おばあちゃんは、娘が好きな絵本があると「ここちゃんにあげるから持っていって」と言ってくれたんですよね。成長とともに「じゃあ今度はこれどう?」とか「新しいのあるよ」と。逆に娘が読まなくなった絵本があれば返したり。まるで「ばあば図書館」ですね。 

(心奈さん)小学校にあがってから、はじめて読んだ文庫本は『ぼくは王さま』シリーズ*6で、今でも大好きです。3~4年生くらいで『ハリー・ポッター』シリーズ*7 にハマって、それからもいろいろな本を読みました。 

(母・美帆さん)娘がハマっている本を、「これ面白いから読んでみて」とすすめられて、私が読むこともあるんですよ。  

― 読みきかせの時期が終わっても、本を一緒に楽しむ時間は続いていたんですね。 

(母・美帆さん) そうですね。そのきっかけは間違いなく読みきかせの時代にあったように思います。赤ちゃんの頃から始まった絵本の時間がずっと続いているような。そのはじまりをたどってみると、やっぱり『いない いない ばあ』に戻るんですよね。絵本を読むと、娘が笑ってくれるので、私がしたことで喜んでもらえて、時間を共有ができたことが嬉しかったなと思います。 

(心奈さん)今では、きょうだいのような感覚で母と接しているのですが、絵本を読んでもらうときは「お母さんと子ども」として接した時間なのかなと思います。 

― 心奈さんにとって、絵本はどういうものですか? 

(心奈さん)絵本には、絵が描いてありますよね。私は本を読むときに、頭の中に絵が浮かぶんです。それは、もしかすると絵本を読んでいたことがきっかけなのかな、と思っていて。 

(母・美帆さん) ものすごく『ハリー・ポッター』シリーズが好きなんですよ。3~4年生くらいのときにすごい勢いで読み始めて、全巻読んでいるんですが、映画はほとんど見ていなくて。見てないんだけど、映画の中のシーンがちょっとテレビに映ると、「あ、あれはあの場面だ」と分かるみたいです。 

― 心奈さんにとって、お母さんはどんな存在ですか? 

(心奈さん)なんでも話せる人という感じです。いつも味方でいてくれます。時には「それは違うんじゃない?」と言われることもありますが、それも含めて、すべての意見を信頼できるというか。今は一人暮らしでスマホでの会話が多くなりましたが、 形は変わってもずっとしゃべっています(笑) 

― お母さんにとって、心奈さんはどんな存在ですか? 

(母・美帆さん)娘と私は違う人間だ、という意識は大事にしていました。常日頃「あなたは何がしたい?」と聞くようにしていたので、例えば何かあったときにも「だってあなたがやりたいと言ったんでしょ?」というように、ちょっと厳しくしていた部分もあったかもしれません。でも本人は「まあ、それもそうか」みたいな感じでした。それから、私が困ったときには、ちゃんと意見をくれる存在でもあります。一人の人として信頼できるというか。その意味では、大きくなってから何かがすごく変わったというわけではないかもしれません。

(心奈さん)責任をもつのが大事ということは、母のそういう関わりから学んだのかなと思います。 

― ブックスタートという活動について、どう思いますか? 

(母・美帆さん)素敵な取り組みだと思いました。が生まれた年からというのは知らなかったのですが、市が企画しているんだという驚きと、喜びがありました。絵本を受け取って、家に帰ってきて、自分でまず読んでみて、「読みたい」と思ったときに娘と一緒に読んで…そういうきっかけになったかなって。ふたりで向き合う時間になっていたなと今振り返ると思います。私たちはこういう形でしたが、きっとそれぞれの家庭で、それぞれの思い出ができますよね。 

(心奈さん)家族の中に楽しい時間が広がっていく、そのきっかけをくれるというのはすごいことだと思います。これからもここにある絵本を大切にとっておくつもりです。そして、もしも自分が親になるようなことがあ れば、子どもと一緒に読めたらいいなとも思っています。

― 今学んでいること、これから頑張りたいことを教えてください。 

(心奈さん)大学ではスポーツ科学を学んでいます。中学からボート競技に取り組んでいて、今は大学の漕艇部に所属しています。私が特に力を入れているのは、コースタルローイングという海での競技です。2028年のロサンゼルスオリンピック出場を目指して頑張っています! 

* * * 

「思い入れのある絵本は、今も大事にとってあります」 

その1冊に、ブックスタートの絵本があることを嬉しく思いながらお話を聞きました。たくさん楽しんだ絵本は、ひらくたびに、そのときの声やぬくもりを思い出す「アルバム」のような、特別な存在になるのですね。  

心奈さん、オリンピック出場、応援しています!! 

*1『いない いない ばあ』(作:松谷みよ子/絵:瀬川康男/童心社)
*2 『めっきらもっきら どおんどん』(作:長谷川摂子/絵:ふりやなな/福音館書店)
3 『チリンのすず』(作:やなせたかし/フレーベル館)
4 『おやまのでんしゃ』(作:おぼまこと/講談社)
5 『マーくんとぷくぷく』(作:いわむらかずお/偕成社)
6 『ぼくは王さま』シリーズ(作:寺村輝夫/絵:和歌山静子/理論社)
7 『ハリー・ポッター』シリーズ(作:J.K.ローリング/訳:松岡佑子/静山社)