連載最終回です。当連載で紹介してきた「多言語対応 絵本紹介シート」。絵本紹介シートは、外国人親子にとってだけでなく、ブックスタートに関わる人たちにも意義のあるものになり得ると考えています。それは、シートを手渡す際に、お互いにコミュニケーションを取り合うきっかけができるからです。
東京外国語大学 多言語多文化共生センター長の小島祥美准教授は、長年、外国につながる子どもたちの就学支援に関する活動や、外国人保護者への地域の子育て支援の在り方などについて研究をされてきたご経験から、ブックスタートについて次のように話されました。
「外国人住民は、単身の場合、日本の地域社会と接点を持つ機会はほとんどありません。我が子を通して初めて、地域との接点を持つという外国人も多いです。そうした意味でもブックスタートは、保護者となった外国人とその子どもが、地域とつながるきっかけとして、機能するのではと期待しています。ブックスタートでは、地域の人と外国人親子とが直接会話ができる絶好の機会をお持ちです!ぜひ、“あなたの国ではどんな絵本がありますか?”など、やさしい日本語でよいので、保護者に声をかけていただきたいです。同じ地域の人どうしが話すことに、大きな意味があるのです」
「近年自治体では、来日して間もないなど、日本語がわからない子どもを対象とした、日本語初期指導教室の設置が進んでいます。そこで出会う先生や日本人住民の良い印象は、その後の子どもたちに大きな影響を与えます。実際に、長年そうした取り組みを続けている自治体では、子どもたちが親になった時、またその地域に戻って子育てをし、納税者となって暮らす外国人が増えています。生まれた場所は違っても、自分を一市民として育ててくれた街という思いを育んだ彼ら・彼女らは、そこを『ジモト』と呼びます。子どもたちが最初の一歩を踏み出す際に出会った大人との関わりは、長い目で見ると、地域づくりにもつながっているのです」
▼子育て支援マップの説明を聞く親子
小島先生のお話を伺い、ある自治体の担当者から聞いた言葉を思い出しました。
「ブックスタートを受けた子どもたちが、このまちを好きになって、大きくなった時に、このまちで育って良かったと思ってくれたら、という願いを込めて事業を行っています。ブックスタートは、人づくり、まちづくりの活動でもあるのです」
ブックスタートにやってくる親子は、外国人、日本人関係なく、皆同じように、そのまちに暮らし、そこで育つ人たちなのだと、改めて思います。これからも、各地のブックスタートで交わされる外国人親子とスタッフとのやり取りが、その先の子どもたちの幸せにつながっていくことを願って、全国の自治体と共に取り組みを続けていきたいと思います。
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▼連載「赤ちゃん絵本を9言語で紹介」その他の回を読む
1. 外国人親子に、絵本を楽しんでもらうために
2. 「やさしい日本語」のこと
3. 紹介シートの翻訳を依頼する中で学んだこと
4. 日本語の読みを言語ごとに記載
5. 「ジモト」で育つ子どもたちに思いを寄せて※本稿