「目が見えない、見えにくい赤ちゃんにとって、絵本のひとときはどんな時間なのだろう?保護者は、絵本についてどのように考えるのだろう?」
それらについて知るために、私たちは、筑波大学附属視覚特別支援学校幼稚部の育児学級(0~2歳の子どもたちと保護者が参加)をお訪ねしました。そこでは、1歳過ぎ位の見えにくいお子さんを、お母さんがひざの上に座らせて、『もこ もこもこ』を読んでいらっしゃいました。
『もこ もこもこ』(作/谷川俊太郎 絵/元永定正 文研出版)
「もこ」、「もこもこ」、「にょき」と読み進める中で、強弱をつけながらひざを振動させたり、「つん」では、人差し指で優しくお子さんのほっぺにふれたり、手を取ってあげたりと、身体全体を使って絵本を読みきかせていたお母さん。お子さんも、自分から絵本に身体を近づけて、絵本を触ったり、ページをめくろうとしていて、2人の間にはゆったりとした絵本の時間が流れていました。
お母さんにお話を聞いたところ、ご自身も絵本が大好きで、お子さんが生まれてすぐの頃から絵本を読んであげているとのこと。そして、「絵本の時間は、忙しい毎日の中、5分10分でも、子どもとゆったりと過ごすことのできる大事な時間です」と嬉しそうに話してくださいました。
幼稚部の高見節子先生が、「目が見えない、見えにくい赤ちゃんも、絵本を読んでもらうことが大好きなんですよ。赤ちゃんは、お父さんやお母さんのあたたかなぬくもりの中で、絵本を読んでもらう優しい声を聞きながら、心地よさや喜びを感じるんです。」とお話しくださったのですが、『もこ もこもこ』を楽しんでいる様子を拝見し、本当にその通りだな、と思いました。
また、先生によると、視覚に障害のある子が成長していく上で、自分の手で触って情報を得る体験を積み重ねることはとても大切なのだそうです。とはいえ、知らない物に能動的に触るのは、とても勇気のいること。でも、信頼できる人が見守ってくれる環境があれば、その一歩を踏み出して、世界を広げていくことができるのです。
「お父さんやお母さんからたくさん言葉をかけてもらうことで、見えない、見えにくい赤ちゃんは、人との信頼関係を育みます。絵本を介して、一つのものを一緒に楽しみ、共感し合う経験は、人と関わる力を育む土台にもなっていくんですよ。」
先生のこの言葉を聞いて、絵本が、親子が心ふれあうきっかけになることは、目が見える、見えないに関係ないということがとてもよくわかりました。
この見学では、ある保護者から、「ブックスタートで悲しい思いをした」という話も聞きました。家庭訪問でブックスタートを受けた際、訪問員の方がお子さんの視覚に障害があることを知って驚かれて、「読むのはやめておきましょうね」と言って、読みきかせや説明がないまま絵本を渡されたとのことでした。
実は私たちも、見学に伺うまでは、視覚に障害のある赤ちゃんが絵本を楽しむ姿を想像できていませんでした。先生からお聞きした、「目が見えない、見えにくい赤ちゃんも、絵本を読んでもらうことが大好き」ということを、ブックスタートに携わっている人たちにしっかりと伝え、このようなことが二度とないようにしていかなければいけないと強く感じました。
連載第7回では、絵本の楽しみ方や絵本選びのポイントについて紹介します。
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▼連載「障害のある方への対応を考えるために」その他の回を読む
1. 読書バリアフリー(1)
2. 読書バリアフリー(2)
3. 「てんやく絵本」との出合い
4. 障害ってどういうことだろう?
5. 障害のある赤ちゃんや保護者について
6. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(1)※本稿
7. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(2)
8. 聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんと絵本
9. 聞こえない、聞こえにくい保護者と絵本
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*「障害」の表記について
当NPOでは、「障害」の原因が「個人が持つ心身機能など=個人モデル/医学モデル」ではなく、機能障害に対応できない「社会の側にある=社会モデル」という「障害者権利条約」の考え方に基づき、「障害」及び「障害のある」と表記しています。