ブックスタートに視覚に障害のある方がいらした場合、どんな対応をすればよいのか?
私たちは、数年前まで、その具体的な方法がわからずにいました。そうした時にお話をお聞きしたのが、「てんやく絵本 ふれあい文庫」代表の岩田美津子さん。2012年のことです。
ふれあい文庫 代表 岩田美津子さん
岩田さんは生まれつきの全盲のため、耳でおはなしを聞くことはあっても、絵本の本来の楽しみ方は知らずに育ってこられたそうです。そのため、息子さんにも、おもちゃと同じ感覚で絵本を与えていました。でもある日、息子さんが岩田さんの手を取って、絵本のページを触らせて「これは?これは?」と尋ねてきたのです。その時に初めて、子どもにとって絵本とは、お母さんに読んで欲しいものなのだ、ということを知りました。このことを機に、一人のお母さんとして「絵本を読んでやりたい」と強く思い、「てんやく絵本」の活動を始めました。
「てんやく絵本」は、市販の絵本に、本文の点訳だけでなく、絵の形を取った透明シートを貼り付けた絵本です。絵の説明文を点字で添えることもあります。
『ととけっこう よがあけた』(案/こばやしえみこ 絵/ましませつこ こぐま社)のてんやく絵本
てんやく絵本であれば、息子さんが絵を指差して、「○○だね」と言えば、岩田さんも「そうだね」と答えてやることができ、一緒に絵本を楽しめます。
ご自身の体験から、「子どもはお父さんやお母さんに語りかけてもらうことが大好きで、それは見えない保護者にとっても楽しい時間なんですよ」とおっしゃった岩田さん。生まれつき目の見えない保護者の中には、絵本の楽しさを体験したことがないために、「見える人が子どもに読んでくれればよい」と考える人もいるということも教えてくださいました。
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岩田さんのお話の中で、なにより印象に残ったのは「ツルツルの紙」という一言です。岩田さんにとって、市販の絵本は、ただの「ツルツルの紙」でしかなかったのです。
その時点では、NPOブックスタートから自治体に提供しているのも、そのままの形の市販の絵本、つまり見えない人にとっては「ツルツルの紙」でした。当時、いくつかの自治体では、ボランティアの協力を得て、工夫を施した絵本を視覚に障害のある方にお渡しすることもありました。しかし、そうした対応をすべての自治体でできるわけではありません。だからこそ、全国のブックスタートの推進団体として、サポート体制を整える必要があると感じました。
現在、当法人では、視覚に障害のある方のニーズに合わせ、ブックスタートで手渡される絵本を自治体を通じて「てんやく絵本」に交換する体制を整えています。この、ブックスタート用のてんやく絵本の製作・提供に関しては、ふれあい文庫の皆さんや、絵本の著作権者、出版社にご理解・ご協力をいただいています。
そして、これまでに、4家族のもとにてんやく絵本をお届けしました。ご両親ともに目が見えないご家族や、目の見えないお母さん、目の見えない赤ちゃんがいるご家族です。こうした事例があるたびに、てんやく絵本を必要とされている方が、ブックスタートの対象者の中には必ずいらっしゃるということを実感します。
楽しそうにてんやく絵本を読みきかせるお母さん
これからも、自治体の方々とともに、ブックスタートで、必要としている方に「てんやく絵本」を届けていきたいです。
※「ブックスタート・ニュースレター 2019年春号」で、てんやく絵本を特集しました。ぜひご覧ください。
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▼連載「障害のある方への対応を考えるために」その他の回を読む
1. 読書バリアフリー(1)
2. 読書バリアフリー(2)
3. 「てんやく絵本」との出合い※本稿
4. 障害ってどういうことだろう?
5. 障害のある赤ちゃんや保護者について
6. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(1)
7. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(2)
8. 聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんと絵本
9. 聞こえない、聞こえにくい保護者と絵本
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*「障害」の表記について
当NPOでは、「障害」の原因が「個人が持つ心身機能など=個人モデル/医学モデル」ではなく、機能障害に対応できない「社会の側にある=社会モデル」という「障害者権利条約」の考え方に基づき、「障害」及び「障害のある」と表記しています。