診察、身体測定、相談など、行うべき項目が多く、とにかく忙しい!それでも、赤ちゃんの集団健診や健康相談、育児教室など の機会にブックスタートを実施する地域が多いのはなぜでしょうか。忙しくともスムーズに事業を運営するには、どのような工夫が必要でしょうか。
千葉県鎌ケ谷市で母子保健を担当する角田まゆみさんに、保健師としての視点からお話しいただきました。
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<話題提供>
千葉県鎌ケ谷市健康増進課 母子保健係長 角田まゆみさん
<鎌ケ谷市基本情報>
事業開始: 2004 年度 出生数:605 人 (2023年)
実施機会:4 か月児健康相談 事務局:健康増進課
連携機関:図書館、こども支援課(子育て支援センター)、ボランティア
子育て支援策として
鎌ケ谷市 では、子育て支援の一環として4か月児健康相談の最後にブックスタートを実施しています。ボランティアが流れを見ながら親子を案内。わらべうたを楽しんだ後に読みきかせを行い、赤ちゃんに言葉をかける大切さを伝えながら、絵本の入ったパックを手渡しています。
4か月児を対象とする理由
4か月児を対象とする理由は、以下の4点です。
<理由1>
少子化や核家族化で、自分が親になるまで赤ちゃんと接した経験がない保護者が増えている。保護者が戸惑いを感じる前に、絵本を通じた「生の声」で、赤ちゃんに言葉をかけていくことの大切さを伝えたい。
<理由2>
赤ちゃんが「愛されている」と感じ、満足する。安心感を得る。そうしたなかで、親子の間に良い信頼関係も築かれていく。親子のコミュニケーションのひとつとして、「絵本」のひとときが取り入れられるようにしたい。
<理由3>
4か月は音に対して敏感な時期。この時期の赤ちゃんにとって絵本のひとときは、わらべうた、語りかけと同じように大切な時間となる。
<理由4>
情報化が進み人と人が向き合う機会が減りつつある。赤ちゃんが機械の音と接する前に、生の声かけの心地よさを伝えたい。
健康相談で実施する意義と工夫
「全数」が対象であることから、4か月児健康相談をブックスタートの実施機会としています。受診率は90%以上。未受診者には訪問もしています。すべての家庭に平等に絵本を手渡し、親子のふれあいの大切さを伝えられる意義は大きいです。
スムーズに実施できるよう、役割分担を明確にしています。全体の進行管理は図書館職員とボランティアが担当。読みきかせや親子の誘導などは、ボランティアが担っています。保健師はミーティングや反省会には参加するものの、基本的には相談業務に入っています。
ボランティアとの協働
親族や知り合いなど、身近に支援者がいない状況で子育てをスタートする人が増えています。悩みやニーズも様々ななかで、ブックスタートでは保護者をねぎらい、「一人で頑張りすぎないで。相談できる人がいるよ」といったメッセージを直接伝えることができます。ボランティアさんには、児童センターでの読みきかせ等、幅広く活動されている方も多く、親子を市のサービスにつなげてくれています。様々な経験を持つ市民の皆さんと協働することで、行政と市民、互いの強みを生かしながら、安心して子育てができる環境づくりをしていきたいです。
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親子一組一組、それぞれに色々な背景を背負っている。だからからこそ、「すべて」の赤ちゃんに「平等」に機会を届けたい――。角田さんの言葉には、保健師としてのそうした信念が感じられました。
続いて行われた意見交換では、関わる人たちが「共通認識」をもつ意義について意見が交わされました。
◇福岡県筑後市立図書館 館長 一ノ瀬留美さん
筑後市では2008年度に、ブックスタートの実施機会を10か月児から4か月児健診に移行しました。その際、健診担当課、図書館、市長による話し合いの場を設け、「市の事業」としての位置づけを明確にしました。心と体の健康を健診で応援していくという認識を関係者が共有した上で、再スタートを切ることができました。
◇ NPOブックスタート理事・埼玉県三芳町立図書館 元館長 代田知子さん
三芳町では事業開始時、図書館、健康増進課、子育て支援課の役職者、保育園の関係者が集まり、NPOブックスタート職員による勉強会を開催。「町全体でブックスタート事業に取り組む」という意思疎通がそこで図られたように思います。コロナ禍で一時的に健診が実施できない期間もありましたが、健診の再開と同時にブックスタートでの読みきかせも始められたのは、職員間に事業への共有認識があったからだと思います。
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[開催報告]2024年度ブックスタート全国研修会
「時間がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション①
「人がいない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション②
「お金がない?」~2024年度全国研修会・パネルディスカッション③
実施・継続に必要なことは?~2024年度全国研修会・パネルディスカッション④