お話をうかがった方:
大日向雅美さん(発達心理学・恵泉女学園大学 学長)
※本稿はブックスタート・ハンドブック 第7版(2018年4月発行)掲載の「専門家から見たブックスタートの可能性」を転載したものです。
「今どきのお母さんは……」というセリフの後には、肯定的な言葉が続かないことが多いかもしれません。しかし、私がお会いするお母さんたちは皆、懸命に子育てをしています。一方でそれが、保護者自身の苦しさにつながっているのではとも感じています。国を挙げて子育て支援の重要性が叫ばれるようになったことを歓迎しつつも、保護者は世の中の子育てへの期待の高まりも同時に感じ、「立派に育児ができて当たり前」「子育て支援を上手に使って、よりよく育てなくてはいけない」という気持ちを強くしているようにも思うのです。
今の時代は、技術革新が進み、生活全般が便利になりました。子育てについても、例えばおむつが布から紙になったことで、どれだけのお母さんが助かったことでしょう。では、家事の負担が減ったことにより生まれた時間は、どのように使われているか。ここでもやはりお母さんたちは、一生懸命過ぎると思うほど、赤ちゃんがよりよく育つことに力を注いでいます。中には、早期教育や脳の発達にいいものを追い求めたり、絵本を読むことに対しても「感性を育てなければ」と懸命になってしまう人もいるようです。
私は今、子どもと関わることについて、世の中に成果主義のような考え方が広がり過ぎていることを危惧しています。絵本についても同様で、赤ちゃんへの効果を期待して読みきかせをするのではなく、赤ちゃんの柔らかな肌のぬくもりを感じながら絵本を開き、「楽しいな」「この子とこうして過ごすのは心地よいな」と感じること、それが何より大事なのではないかと思うのです。そうしたぼーっと過ごせる時間が今、不思議なことに貴重になっています。ただ、生活の中にそうした豊かな時間を持ちたくても、何かのツールがないと案外できないものです。ですから、ブックスタートで絵本を手渡すことは、ひとつのきっかけになるでしょう。
そして、活動に関わるスタッフの皆さんには、読みきかせをする際、ぜひ心から絵本を楽しんでほしいと思います。「絵本は子どもの発達によいから」「ブックスタートはよい親子関係の構築に貢献できるから」といった思いで勧めるのではなく、絵本を心から好きになること。そうすれば、たとえ読み方がうまくなくても、自分が楽しく読めます。読み手が楽しそうにしていれば、赤ちゃんは自然に絵本の世界に吸い寄せられていくことでしょう。